玄人好みの先物取引
大部分では、収益を金額で示すことにしてあるのです。
実際には、株価はもっと細かな単位で変動しまずから、それに対する予想をきちんとかたちにしようとすれば、確率分布はもっと細かな刻みで書かれなければなりません。
しかし、ここは、まずは基本的な考え方を示すことを目的としていますので、できる限り単純化したグラフを使います。
また、株価の予想というのは、結局は主観的なものであって、そもそもあまり細かく予想しても仕方がないものであると考えられます。
ですから、確率分布もおおざっぱな刻みで書けばいいのです。
この点については、ここの後半で再度検討することにして、しばらくは、現在の株価が一〇〇万円の株が五万円刻みで値上がりしたり、値下がりしたりするという例に基づいた確率分布のグラフを中心に、説明をすることにします。
標準偏差でばらつきをみるさていよいよ、株価変動によるマーケット・リスクの大きさをどうやって把握するのか、という問題を考えましょう。
ここでは、三つのタイプの指標(測り方)を示しますが、ここで取り上げる以外にもマーケット・リスクを測る指標はあります。
先にも述べましたが、どの指標も一長一短で、決定的な指標がないからです。
そこで、それぞれの指標の短所や限界を十分に意識しながら、理解を深めてください。
先の例と同様に、現在の株価が一〇〇万円の企業の株を一株だけ買って、その株価が一ヵ月後にどのように変化しているのかによって、プラスあるいはマイナスの収益が発生するものとします。
一ヵ月後の株価について予想してみたところ、それがAのグラフのような確率分布で予想された場合と、Bのグラフの確率分布で予想された場合とで、どちらがリスクは高いと考えられるでしょうか。
ぱっとみた感じでは、Aの方がリスクは高そうですし、実際にその通りなのですが、いつも感じだけで判断するわけにはいきません。
何らかの指標を使ってきちんとリスクを測りましょう。
もっとも単純な考え方は、この確率分布のか幅に注目するものです。
Aのグラフであれば、マイナス一五万円からプラス二五万円までの聞に確率分布が書かれていますので、その幅は四○万円となります。
この幅の数値が大きいほどリスクも高いと考えて、リスクの大きさを示す指標に使おうというわけです。
しかし、この指標は、そのままでは実用に使えません。
現実には、どのような巨額の損失の可能性も決してゼロではないからです。
一〇〇万円の株価が一ヵ月後に一○万円まで値下がりする確率は非常に低く、一%よりずっと小さいかもしれませんが、決してゼロではないはずです。
そのように考えていくと、確率分布の上限や下限がはっきりとしているというグラフは、現実にはなかなか存在しないことになります。
細かな刻みで確率分布を示すなら、そのグラフの両端を伸ばしていくと、確率はゼロに近づいていきますが、完全にゼロにはならずに非常に小さな確率がつづくのです。
そうすると、単純に幅をとることはできません。
そこで、少し統計的な概念を使って、幅の数値を測るという考え方を手直ししましょう。
確率分布は、学校などでおこなわれる試験の点数分布と同じかたちをしています。
試験の点数分布が全体的に幅の広い分布になっているのか、それとも幅の狭い分布になっているのかを示す指標に、「標準偏差」と呼ばれるものがあります。
入試などに関連してよく出てくる偏差値という言葉も、これに関連しています。
くわしく知りたい人には統計学の入門書を読んでいただきたいのですが、わかりやすくいえば、すべてのデータの「平均」をまず計算して、それを中心に、それぞれのデータが平均からどのくらいの幅で離れているのかをとります。
これが偏差というものなのですが、すべてのデータについての偏差を公式に基づいて集計すると、分布のばらつきを示す指標として「標準偏差」が計算されます。
標準偏差は、平均を中心にしてばらつきをみる指標であり、その数値が大きい場合には、ぱらつきも大きいことになります。
入試の点数分布だけでなく、株価変動による予想収益の確率分布についても、もちろん標準偏差が計算できます。
しかも、その確率分布のかたちがきちんと数式などで示されるならば、標準偏差が計算できるのです。
そこで、確率分布の標準偏差が、まずひとつ目のリスクの指標として考えられます。
標準偏差は、分布のばらつきを示す指標の定番ですから、金融の世界でも、標準偏差をリスクの指標として使うことが多くみられます。
ここのレベルでは、おおまかにいって、標準偏差は相対的に大きくなり、Bのグラフのような確率分布ならば標準偏差は相対的に小さくなると覚えておけば大丈夫です。
ただし、標準偏差で金融におけるリスクを測ることには、いくつかの間題点があります。
同じ株を買ってもっているときの予想収益が、それぞれのグラフのように予想されるとどちらの方がリスクが高いと感じられるでしょうか。
標準偏差でリスクを測ることの問題点A確率B予想確率じつは、AとBのグラフで示される確率分布の標準偏差は、まったく同じになります。
標準偏差は平均からのばらつきをみるものですから、平均を中心にみて、分布の左右への広がり方が同じAとBのグラフは、同じ標準偏差を示すのです。
では、Aの確率分布で予想が示されるケースと、Bの確率分布のケースとで、この株をもつことのリスクは同じなのでしょうか。
Aのケースなら、二○万円の損失をこうむる可能性があります。
Bのケースなら、二○万円も損をする可能性はありません。
実感としては、明らかにAのケースの方がリスクは高いはずです。
予想収益を示す確率分布の性質についてみるときには、同じ標準偏差であっても、平均がちがえば、リスクはちがってくるのです。
また、標準偏差と平均がともに同じであっても、ちがう確率分布になるようなグラフはいくらでも書けます。
きれいな山形の分布ではなく、二つ山があるような分布など、かたちの崩れた確率分布の場合には、標準偏差と平均の二つの値だけで分布のかたちを特定できません。
さて、あとでは。
ポートフォリオ理論について説明しますが、一般的なポートフォリオ理論の教科書では、標準偏差でリスクを測るのがふつうです。
それは、予想収益について、平均と標準偏差の二つの指標をみて分析することが多く、そうであれば、平均のちがいは、別のところで考慮されているからです。
また、特定の性質をもった確率分布で予想が表せると仮定して、かたちの乱れた確率分布になる可能性を排除することも、よく使われるやり方です。
ダウン・サイド・リスク標準偏差はリスクの大きさをみる際に便利な指標なのですが、問題点もあることがわかりました。
そこで、もっと実感にあうリスクの指標を考えてみましょう。
私たちが株をもっときにリスクを感じるのは、それが値下がりすれば損をするからです。
この「ダウン・サイド・リスク」と呼ばれるものです。
簡単にいえば、予想収益がマイナスになる確率のことで、実際にダウン・サイド・リスクを計算してゼロのところのグラフは灰色で、予想収益がプラスの確率を示す棒グラフは白地で、予想収益がマイナスの確率は黒のグラフで示してあります。
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